※ジュードにお兄さんがいる設定。











 僕には、年の離れた兄がいた。
 強くて、優しくて、幼かった僕やレイアの良き遊び相手だった。

 でも……。


 夢・ユメ


「何馬鹿な事を言ってるんだ!!」
 バシンと人を叩く音がして、僕は目が覚めた。
 多分、真夜中だったと思う。
 僕はむくりと起き上がると、閉じられた扉をそっと開き、その隙間から覗く。
 普段は穏やかな父さんが、珍しく怒りを露にしている。
 兄さんは頬を真っ赤にして、床にしりもちをついていた。
 この光景から、父さんが兄さんを叩いたのだと知る。
「だから俺は、医者を継ぐのは嫌なんだ!」
 起き上がった兄さんは、父さんをにらみ付けていた。
「それほど、医者を継ぐのが嫌なら出て行け!」

 ……えっ……?
 父さん、何を言ってるの?

「あぁ、そうしてやるよ!!」
 
 兄さん、もしかして出て行くの……?
 僕を置いて行くの?

 ……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ……!!
 扉を開けて、引きとめようと思いつつも、足が震えて動けない。
 動けない間に、兄さんはいつの間にか置いていたバッグを持って、扉を開けた。

 兄の背中が遠くなっていく。

 待って!
 僕を置いていかないで!!

 約束したでしょ! 一緒に治療院を継ぐんだって……!!

 声が出ない。涙が流れる。

 そして兄さんは、この家から出て行った。



「……い! ……ード君!
 ジュード!!!」
 声が呼ばれて目が覚めると、目の前に今日の見張り係――アルヴィンの顔があった。
「アル……ヴィン……?」
「大丈夫か?
 思い切り魘されてたぞ?」

 魘されてた……?
 じゃあ、あれは夢だったんだ。

 涙がこぼれてたのを気づき、慌てて拭って、起き上がる。
 ミラは余程疲れているらしい。今でも寝息を立てていて、起きる気配がない。

「……兄さんの夢を見たんだ」
「兄貴の?」
 アルヴィンは目を丸くした。
「うん。僕には年の離れた兄さんがいて、いつも一緒だったんだ」

 僕は兄との思い出を少しずつ話した。
 一緒に悪戯して遊んだこと、レイアに泣かされた僕が向かう場所は兄がいる場所だったこと、一緒に
医者になって、マティス治療院を世界的に有名にするんだと話した事。

 そして、兄さんが家を飛び出した事。


「そっか。この旅で会えると良いな」
 ポンと頭に手が乗せられる。
 いつもなら、子ども扱いされてるってムッとしていたのだが、今は何故か怒りじゃなくて、安心感を
感じた。
「……うん」

 アルヴィンに話したからか、すごく楽になった気がする。
 安心していたら、眠気が襲ってくる。

「変な事話してごめんね。
 それじゃ、おやすみ」
「あぁ」
 
 僕は再びタオルケットを羽織り、そのまま眠りについた。

 今度は兄の夢を見なかった。



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