古友人

 神様といえば、なにが浮かびますか。
 空にいて、時に裁きをくだすものですか。
 それとも、何でも自分の思いとおりに事を運ぶ事が出来る、絶対的な存在ですか。
 此処でお話する神様は、どちらでも無いのです。
 それじゃ、お話しましょう。「古友人」という、変わったお話を。

 遠い昔。ある険しい山に、一匹の龍が暮らしておりました。
 その龍は新緑色の鱗を持ち、金色の瞳で、ふもとの村人を見守っていました。
 ふもとの村人も、その龍を村の守り神として崇めています。
 しかし、その龍はとても寂しく思いました。何故なら、どんなに崇められていても、仲
間の龍は誰もいなくて、一人ぼっちだからです。いつまで、たった一人で村人を見守らな
ければならないのだろうか。
 その疑問を抱いて数日。
「大丈夫、お前は一人ではないよ」
 ある日、一人の人間が龍の元へ訪れました。その人間は金色の髪を背中くらいまで伸ば
し、同じ色の瞳はとても優しく、龍を見つめています。ぱっと見て、女性に見えますが、
声は男性特有の低い声です。
 まるで、龍が寂しがっているのを知っているかのような言葉でした。
「わたしも一緒にいてあげるから」
 そう言って、人間は身体を光らせ、金色の髪を地面までに伸ばし、瞳は金からすみれの
ような濃い紫へと変化しました。
 人間で、このように変化する者はいません。なのに、何故彼は出来たのか。
 そもそも、彼は何者なのか。
 思い当たる事があって、龍は頭を下げました。
「顔を上げなさい。わたしは、もう、お前が思ってるような者ではないのだから」
 意味が分からず、龍は顔を上げて、彼を見つめました。
「わたしは、追放されたのだよ。
 天からの罰を受けて……ね」
 彼は自嘲するように微笑みます。
「もう、此処しか場所はないのだ。
 昔からの友人であるお前しか」
 『昔からの友人』。
 その言葉に、龍は一声上げました。それは同意なのか、否なのか。それは彼にしかわか
りません。

 それから数日後。ふもとの村ではある噂が立っていました。
 それは、龍のほかにも誰かが、我々を見守っているという、根拠のないものでした。
 しかし、その噂が本当だという事は、彼らを見守る龍と、龍と一緒に居る堕ちた神にし
かわかりません。
 龍は結局、堕ちた神と一緒にいる事を選びました。
 何故なら龍とその神は、古友人(いにしえともびと)だったからです。


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