何が原因なんだろう。
 じくじくと胸が痛む。……病気か?


言えない、お前にはなおさら





 事の始まりは、アクアスを抜けて、ゾネスへの進撃。
 そこには、敵の基地があるらしい。そして、ペッピーの新婚旅行先でもある。
 本で見たときは、海の色が澄んだ青色だったのに、今は汚染が進み、黒みかかった緑の
海。もはや、原型を留めていなかった。
 異臭が漂いそうな海の上を、俺たちは飛んでいた。
 そんな中で、
『キャット! どうしてお前が!』
 初めて聞いたあいつの動揺の声に、俺はびっくりしていた。
 気づけば、ファルコ機の近くに、ピンク色の機体の姿があり、
『せっかく会いに来たのに、随分な言い方ね』
 と、猫の女性の姿が通信モニターに写る。
 なかなかの美人だ。
 その女性が、戦闘機を駆って、敵機を次々と撃ち落していく。
 いつもからかわれているから、絶好のネタを見つけたと言わんばかりに、
『何々、ファルコの恋人?』
 とスリッピーは訊ねる。
『うっせ! そんなんじゃねぇ!』
 ファルコ、目の前の敵機を破壊。
『じゃあ元カノ?』
 海から突如現れた、海老のようなバイオ兵器を撃ち落としながら、スリッピーは更に問
いを重ねる。
『ちげぇっての!
 いい加減にしねぇと、ゾネスの海に沈めんぞ!!』
『お前たち、いい加減にせんかぁー!!』
 鶴の一声というべきか、ペッピーの怒声が飛んでくる。毎度のこのパターンに、俺は苦
笑い。

 途端に、胸の痛みがした。

 まるで、胸に一本の針が刺さったみたいで、どうにも落ち着かない。
「うわっ!」
 油断して、敵のレーザーを浴びてしまったらしい。がくんっと揺れ、少しばかり減って
いたシールドが、半分くらいまで下がってしまっていた。
『フォックス、大丈夫かい?』
「ああ、大丈夫。ちょっとかすっただけだ。」
 スリッピーからの通信に、俺はそう答える。


 もしかして、俺は――。
 俺は頭を振って否定した。まさか、そんな事あるはずがない。
 だって、俺とあいつは……。


 海に潜んでいた潜水艇は苦労したものの、何とか任務完了。
 帰還して数分経った頃、コンコンと扉をノックする音がして、机の上のパネルを操作す
る。
 恐らくペッピーだろうと思ったが、俺の予想を反して、入ってきたのはファルコ。
 俺からファルコの部屋へ行く事はよくあるが、ファルコから俺の部屋に訪れるという事
は珍しい。
「どうしたんだ?」
 ズンズンと俺に歩み寄る。
「いや、さっきの任務で、ちょっと引っかかってた事があってな。
 ……てかよ、フォックス」
「んっ?」
「本、さかさまになってんぞ?」
 ファルコの指摘で、初めて、読んでいる雑誌が上下逆になっているのに気づいた。
 慌てて元に戻すが、「おいおい、ボケんなよ。ボケんのはおっさんだけにしとけ」と言わ
れてしまった。


 知らないうちに、動揺していたのか?
 何に対してなのかは、言えないし、思いたくない。


「それより、引っかかってた事って何だ?」
 俺は本を閉じて、話を聴く体制になった。
 恐らく、さっきの事。ゾネスで、油断した隙に敵のレーザーを浴びてしまった事だろう。
 ローリングで回避出来る物だったのに、避けられなかった。
「さっきのゾネスで、お前がヘマをしでかした事だ。
 あん時、いつものお前なら避けれた」

 思ったとおり。
 やっぱり気づいていたんだ。

「しかも」
 更に畳み掛けるように、
「その敵を撃ち落さなかっただろ?」
 と追い討ち。
「任務中に考え事するのは、感心しねぇな」
「別に考え事なんて……」
「じゃあ、何か悩み事か?」
「そんなんじゃないって」
「なら良いがな。
 お前が一人で抱えなくとも、俺らが傍にいるんだからよ、少しは頼れ」
「あぁ、そうするよ。
 心配かけて、すまない」
 謝ると、ファルコはへっといつものように、鼻を鳴らした。
「べ、別にそんなんじゃねぇ。
 疲れてるんなら、さっさと休め。
 じゃあな」
「ああ、また後で」
 ファルコが出て行った後、俺は一息つき、じくじくと未だに痛む胸を押さえた。


 すまない、ファルコ。
 この事、誰にも言えないんだ。
 特に、お前にはなおさら……。



 もし、この事を言ってしまえば、自分達の今の関係を壊しそうな気がするから。


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