私が見守っている彼の背中は、とても頼りない。




背中





「お疲れ様、アルタ」
 砂漠惑星・ノーダシーラの遺跡の探査の任務を終わらせ、司令室から出てきた後輩を出
迎える。
「ありがとうございます、リノア先輩」
「喉渇いたでしょ?
 最上階の休憩室へ行きましょう」
「はい」
 私たちは長い廊下を歩き出した。


「ふぅ〜……生き返ったぁ……」
 オレンジ色のジュースを一気に飲み干した彼を見て、
「砂漠の任務、よっぽど大変だったみたいね」
 と、私も同じものを口つけながら言う。
「今日が初めてだったのでしょう? 単独任務なんて」
「はい。
 今まで、リノア先輩と一緒でしたから。
 それに、初めての単独任務は、一番死ぬ確立が高いって聞いてましたから、情けない話
ですが、とても怖かったです」
 アルタは苦笑いして答えていたが、まだマシな方だと思う。
 アルタの前――私にとっては後輩ではあるけれど――の人たちは、単独任務で失敗し、
命を落とした者が半数いた。
 無事に帰還できても、よほど怖い思いをしたのか、恐怖に震え、この戦艦から降りてい
った者もいた。
 アルタみたいな者は、ごく僅かだ。
「初めての単独任務って、プレッシャーと戦わないといけない。
 自分の身は自分で守らなければならないっていった、色々な負担が襲ってくるものよ。
 そんな中で、貴方はちゃんと生きて帰ってきたわ。
 よく頑張ったわね」
「ありがとうございます」
 すると、ピンポンと放送が鳴った。
「リノア・トリス。
 至急、司令室へ」
 野太いその声は、ガンジノス提督の声。
 むすっとした顔して放送しているのがわかる。
「任務ですか?」
「そうね。
 それじゃ、気をつけて自室に戻るのよ」
「はい!
 先輩も、任務頑張ってください!」
「ええ」
 アルタは住居施設へ走り、私は正反対の方向、踵を返して、司令室へとその足を向ける。
 そんな中で、
(最初出会った頃とは大違い。
 そのうち、グレイズ元提督のようになるかもしれないわね……)
 と心中で思った。
 苦笑いして「怖かった」と言っていたけれど、本当は気づいている。

 右手をぐっと握り締めていても、その手が震えていた事を。
 
 初めて顔を合わせた、二人任務の時。
 無事に帰還出来たけれど、恐怖に体を震わせていた彼を思い出す。
 それから半年が経過していた。
 最初は全身で震えていた彼も、半年の月日を経て、右手の震えを押さえようと必死にな
る位までに成長した。

 彼は今よりも成長するだろう。
 数々の任務を経て、一人前の隊員へと。

 しかし、今は無理だ。経験も何もかも、まだ足りない。
 だから、その後輩の背中を見て、時と場合に応じて、頼りない背中を押す。
 やがて彼が成長を遂げた時……。

 長い廊下を抜けた先に、司令室が見えてきた。その重苦しい扉の前に立つ。

 やがて彼が成長を遂げた時、私は心配せず、自身の目標へと目を向けられるだろう。


 私は、扉を開けた。

「失礼します!
 リノア・トリスです」








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